飲食店の店長やオーナーであれば、一度はこんな悩みを抱えたことがあるのではないでしょうか。
人材不足が深刻化している今、新しく採用すること以上に「今いるスタッフが長く活躍できる環境」を作ることが重要になっています。
その中でも、多くの繁盛店が自然と実践しているのが承認(しょうにん)マネジメントです。
●承認とは、ただ褒めることではありません。
スタッフの成果だけではなく、努力や存在そのものを認めることで、「この店で働き続けたい」という気持ちを育てるマネジメント手法です。
実際に私も飲食店の現場で、多くの店舗を経験する中で、人が辞めない店舗には共通点があることを感じてきました。
それは給与や福利厚生だけではなく、日頃から「認められている」と感じられる文化があることです。
- 承認とは何か
- 承認にはどんな種類があるのか
- 飲食店で実践できる承認方法
これらについて、現場目線でわかりやすく解説していきます。
承認とは?人材育成に欠かせないマネジメント手法

承認(しょうにん)とは、相手の存在や考え、感情、行動などを認め、受け入れることです。
必ずしも相手に賛成することではなく、「そのように考えていること」を認めることも承認です。
承認=褒めることではない
「承認」と聞くと、「褒めること」とイメージする方も多いでしょう。
もちろん褒めることも承認の一つですが、それだけでは十分ではありません。
「今日もありがとう。」
「昨日より動きが良くなってきたね。」
「いつも笑顔で接客してくれて助かってる。」
これらは成果を評価しているわけではなく、スタッフの努力や姿勢、存在そのものを認めています。
一方で、
「売上トップだったね!」
「ドリンクを一番売ったね!」
という声掛けは成果に対する承認です。
成果だけを評価すると、一時的にはモチベーションが上がることもあります。
しかし、結果が出なかった日には評価されず、「自分には価値がない」と感じてしまうスタッフも少なくありません。
だからこそ、人材育成では成果だけではなく、日々の行動や存在にも目を向けることが重要なのです。
承認とは、「あなたを見ています」「あなたの頑張りに気付いています」というメッセージを伝えるコミュニケーションだと考えると分かりやすいでしょう。
なぜ今、飲食店で承認が重要なのか
以前の飲食業界は、「見て覚えろ」「背中を見て学べ」という文化が当たり前でしたし、私もそういう風に育てられてきました。
しかし現在は、人材不足が進み、スタッフ一人ひとりの定着が店舗運営に大きく影響します。
アルバイトが一人辞めるだけでも、
- 教育コスト
- 採用コスト
- シフト調整
- サービス品質
など、多くの負担が発生します。
つまり、「辞めない職場づくり」が利益にも直結する時代になったのです。
そのため、多くの企業が給与や福利厚生だけではなく、働きやすい職場づくりに力を入れています。
その中でも、最も費用をかけずに始められる取り組みの一つが承認です。
こうした積み重ねが、「この職場は自分を見てくれている」という安心感につながります。
特に学生アルバイトや若いスタッフは、お金だけでなく「人間関係」を重視して職場を選ぶ傾向があります。

時給が多少高くても、人間関係が悪い職場は離職率が高いです。
逆に、忙しくて時給がわりにあっていないと感じるお店でも、「居心地の良い店舗」であれば長く定着するケースが少なくありません。
承認は、特別なスキルではなく、誰でも今日から実践できるマネジメントです。
しかし、その効果は想像以上に大きく、スタッフの定着率や職場の雰囲気、生産性にも大きな影響を与えます。
承認にはたくさんの種類がある

承認といっても、心理学的にいうと様々な種類があるのはご存じでしょうか。
以下、承認の種類についてまとめた表をご覧ください。
| 承認の種類 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 存在承認 | 「あなたがここにいること自体に価値がある」と認めること | 「今日も来てくれてありがとう」「いつも助かってるよ」 |
| 行動承認 | 行動や努力を認めること | 「挨拶が気持ちよかった」「すぐに片付けてくれて助かった」 |
| 成果承認(結果承認) | 出した結果や成果を認めること | 「売上トップおめでとう」「目標達成したね」 |
| 成長承認 | 成長や変化を認めること | 「前より接客が落ち着いたね」「できることが増えたね」 |
| 能力承認 | 能力や強みを認めること | 「あなたは説明が本当に上手」「判断力があるね」 |
| 人格承認 | 人柄や価値観を認めること | 「誠実なところがいいね」「周りをよく見ているね」 |
| 感謝承認 | 感謝を伝えること | 「本当にありがとう」「あなたのおかげで助かった」 |
| 期待承認 | 信頼や期待を伝えること | 「この仕事はあなたに任せたい」「期待しているよ」 |
「種類が多くて覚えられない…」
「何を実践したらよいかわからない。」
全ての承認を店舗で実施することは難しいので、
“とりあえず飲食店でココを抑えておけば大丈夫!”という3つの承認についてご紹介させていただきます。
今すぐ実践して欲しい3つの承認
承認にはさまざまな考え方がありますが、人材育成の現場では大きく分けて次の3つを意識すると実践しやすくなります。
- 成果承認(結果承認)
- 行動承認
- 存在承認
この3つはどれも大切ですが、それぞれ役割が異なります。
ここを理解すると、「褒めているのに人が育たない」という悩みの原因も見えてきます。

承認は一般的に、「結果承認」→「行動承認」→「存在承認」の順に、相手の心に深く届きやすいとされています。
しかし、ここで注意したいのが信頼関係についてです。
普段ほとんどコミュニケーションを取っていない、
店長や社員から突然…
「〇〇さんがいると安心する」
「あなたがいてくれるだけで助かる」
といった存在承認を伝えても、
「急にどうしたんだろう」
「本心なのかな…」
と相手によっては、違和感を抱かせてしまうことがあります。
だからこそ重要なのは、日頃から小さな承認を積み重ねることです。

「今日も売上目標を達成できたね」と結果承認。
「忙しい中でも笑顔で接客してくれていたね」と行動承認。
普段から繰り返しコミュニケーションと承認を行うことで、「この人は自分のことをちゃんと見てくれている」という信頼が育ちます。
その土台ができて初めて、
「〇〇さんがいるとお店の雰囲気が良くなるね」
「あなたがいると安心して仕事を任せられるよ」
といった存在承認が、相手の心に自然と届くようになります。
承認は一度の言葉で終わるものではありません。
日々のコミュニケーションを積み重ね、
その延長線上で存在を認めることが、スタッフの「自己肯定感」や「エンゲージメント」を高める最も効果的な方法です。
承認が定着すると飲食店はどう変わるのか

承認を続けるとスタッフの表情や職場の雰囲気だけでなく、
数字にも変化が現れます。
飲食店では「売上」「人件費率」「離職率」ばかりが注目されますが、それらはすべて人が作っています。
実際に現場で感じた変化を紹介します。
自分から動くスタッフが増える
承認されるスタッフは、今まで何気なくやっていたことが、
「見てもらえている」という感覚になります。
すると、
- 指示を待たない
- 困っている人を助ける
- 改善提案をする
- 後輩を教える
といった行動が自然と増えていきます。
これは評価制度だけでは作れません。
日々の承認が土台になります。

スタッフから「お店をもっと良くしたい」という前向きな提案も増えてきます。
また、現場だからこそ気づける視点から、的確な改善提案が生まれることも少なくありません。
実際にスタッフの提案を採用した結果、新しいキャンペーンやサービスが成功し、売上向上やリピーター獲得につながるケースもあります。
一人ひとりのモチベーションが高まり、自ら考えて行動するスタッフが増えるため、店舗全体の雰囲気も明るくなり、自然と笑顔の多い職場へと変わっていきます。
ミスを隠さなくない
怒られる職場では、「バレないようにしよう」という心理になります。
しかし承認文化がある職場では、「すぐ相談しよう」に変わるのが特徴です。
結果として、
- クレームが大きくなる前に防げる
- ロスが減る
- 店長の負担も減る
という好循環が生まれます。
離職率が下がる
アルバイトが辞める理由の多くは、
「仕事が大変だから」ではありません。
実際には…
- 認めてもらえない
- 必要とされていない
- 居場所がない
このような感情が積み重なっています。
承認がある職場では、「ここなら頑張ろう」と思えるスタッフが増えます。
採用に何万円もかけるより、今いるスタッフが辞めない仕組みを作る方が、経営効果は大きいケースも少なくありません。
店長・リーダーが今日からできる承認の実践方法

承認は難しいスキルではありません。
少し意識を変えるだけで、今日から始められます。
名前を呼んで話す
「ありがとう。」だけよりも、
「○○さん、ありがとう。」と言われた方が嬉しいものです。
小さな工夫ですが、名前をつけるだけで承認になります。
良い行動をその場で伝える
承認は時間が経つほど効果が薄れます。
例えば「昨日良かったね。」より、
「今の接客すごく良かった。」の方が何倍も伝わります。
結果ではなく努力も認める
売上が伸びなかった日でも、
- 声がよく出ていた
- 笑顔で接客できていた
- 後輩をフォローしていた
こうした行動は必ずあります。
そこを見つける習慣と声かけが、後の成功体験につながります。
人前と個別を使い分ける
- 成果承認は人前。
- 存在承認は個別。
この使い分けが非常に効果的です。
例えば朝礼では、
「○○さんが昨日おすすめ販売を頑張ってくれました。」
個別では、
「最近すごく成長してるね。」
この使い分けのバランスが重要かつ効果的です。
月に一度は1対1で話す
5分でも構いませんし、雑談でも十分です。
「最近どう?」
「困っていることある?」
これだけでもスタッフは「ちゃんと見てもらえている」と感じます。
承認だけでは人は育たない

ここまで承認の重要性をお伝えしてきましたが、
承認だけでは人材育成は完成しません。
承認は「安心して挑戦できる土台」を作るものです。
その上で必要なのが、以下のものです。
- 教育
- フィードバック
- 目標設定
- 評価制度
“何を頑張れば評価されるのか分からない職場”では、
承認しても効果は限定的です。
逆に評価制度だけ厳しくても、
承認がなければ息苦しい職場になります。
つまり、評価と承認はセットで考えることが重要です。
▶評価制度について詳しくまとめた記事です。

まとめ
飲食店では、「厳しく教えた方が育つ」と思われがちです。
しかし実際には、人は認められたときに最も成長します。
承認とは、甘やかすことではありません。
努力や行動、存在をきちんと見て伝えることです。
- 成果だけを見る職場では、人は疲弊します。
- 行動まで見ている職場では、人は挑戦します。
- 存在まで認められる職場では、人は辞めません。
採用が難しい時代だからこそ、
「辞めない職場づくり」こそが最大の人材育成になります。
今日からぜひ、一人のスタッフに「ありがとう」ではなく、
「○○さん、今日のあの対応、本当に助かったよ。」
この一言から始めてみてください。
その積み重ねが、強いチームを作る第一歩になります。
よくある質問(FAQ)
Q. 承認と褒めることは何が違いますか?
褒めることは成果や能力を評価する行為です。一方、承認は成果だけでなく、努力・行動・存在そのものを認めることを指します。結果が出ていないスタッフにも実践できるため、継続的な育成につながります。
Q. ベテランスタッフにも承認は必要ですか?
必要です。経験豊富なスタッフほど「できて当たり前」と思われがちですが、承認されることでモチベーションや後輩育成への意欲が高まります。
Q. 承認ばかりすると甘い職場になりませんか?
なりません。承認は甘やかすことではなく、良い行動や努力を正しく認めることです。
改善点は改善点として伝えながら、承認も同時に行うことで成長しやすい環境になります。
Q. 忙しくて承認する時間がありません。
長時間の面談は必要ありません。「ありがとう」「助かったよ」「今の接客よかったね」といった数十秒の声掛けでも十分効果があります。大切なのは頻度と継続です。
Q. 承認を続けるとどれくらいで効果が出ますか?
職場によって異なりますが、日々の声掛けを継続すると、スタッフ同士のコミュニケーションや自発的な行動に少しずつ変化が現れるケースが多くあります。
離職率や職場の雰囲気の改善は、中長期的な取り組みとして考えることが重要です。
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「何度教えてもスタッフが育たない。」
「褒めているつもりなのに反応が薄い。」
「せっかく育ったスタッフが辞めてしまう。」