飲食店の集客を考えるとき、
といった施策に目が向きがちです。
しかし、売上を安定させるためには、一度来店したお客様に「また来たい」と思ってもらうことも重要です。
そこで注目したいのが、顧客体験(CX:Customer Experience)という考え方です。
顧客体験とは、単純に「料理がおいしかったか」「接客が良かったか」だけを見るものではありません。
お客様が、
「店を知る → 来店する → 注文する → 食事する → 会計する → 店を出る → 次も利用したいと思う」までの一連の体験を、総合的に考える考え方です。
この記事では、飲食店における顧客体験(CX)の意味から、顧客満足度を高め、リピーターを増やすための具体的な方法まで解説します。
顧客体験(CX)とは?

顧客体験(CX)とは、お客様が企業や店舗との接点を通じて得る「体験全体」のことです。
CX=体験全体
顧客満足度=その体験に対する評価飲食店の場合、料理そのものだけが顧客体験ではありません。
例えば、同じ料理を提供する2店舗があったとしても、
- 店を見つけやすい
- 予約が簡単
- 入店時の印象が良い
- 待ち時間が短い
- スタッフが感じよく接してくれる
- メニューが分かりやすい
- 料理が期待通りに提供される
- 店内が快適で居心地が良い
- 会計がスムーズ
- 帰るときに気持ちよく見送られる
といった部分によって、お客様の評価は変わります。
つまりCXでは、「何を提供したか」だけではなく、「お客様がどう感じたか」まで考えることが重要です。
顧客満足度との違い
顧客体験(CX)と顧客満足度は似ていますが、同じものではありません。
- 顧客満足度は「その結果、満足したか」を測る指標。
一方で、
- 顧客体験(CX)は「満足につながるまでの体験全体」を設計する考え方
と考えると分かりやすいでしょう。
例えば、
「料理はおいしかったけれど、注文してから料理が出てくるまで30分かかった」
というケースの場合。
料理そのものへの評価は高くても、店舗全体の体験としては不満が残る可能性があります。
だからこそ、飲食店では料理だけではなく、来店前から退店後までの体験を設計することが重要になります。
飲食店でCXが重要な理由

飲食店では、商品そのものを完全に差別化することが難しい場合があります。
例えば、同じエリアに複数の居酒屋やラーメン店、カフェがあれば、お客様は価格や料理だけでなく、
「居心地がいい」
「スタッフの感じがいい」
「注文がスムーズ」
「家族で利用しやすい」
「なんとなく好き」
といった感覚でも店舗を選びます。
この「なんとなくまた行きたい」が、リピートにつながります。
リピーターは売上の安定につながる
新規顧客を獲得することは重要ですが、毎回新しいお客様だけを集め続けるのは簡単ではありません。
一方、満足したお客様が再来店してくれれば、店舗は継続的に利用してもらえる可能性があります。
さらに、
再来店 → 利用頻度向上 → 客単価向上 → 口コミ・紹介という流れが生まれることもあります。
そのため、CXを考えることは単なる「接客改善」ではなく、店舗の売上を安定させるための経営施策でもあります。
飲食店の顧客体験は「5つの場面」で考える

CXを改善するときにおすすめなのが、顧客の行動を時系列で分解する方法です。
① 来店前
まず考えたいのが、お客様が店を知ってから来店するまでの体験です。
例えば、
- Googleマップの情報が分かりやすい
- SNSで店舗の雰囲気が伝わる
- メニューや価格を事前に確認できる
- 営業時間が正確
- 予約方法が分かりやすい
- 店までのアクセスが分かる
などがあります。
特に初めて利用するお客様にとって、来店前の情報は重要です。
「何を食べられる店なのか分からない」
「料金が分からない」
「予約できるのか分からない」
といった状態では、来店のハードルが上がります。
② 入店時
次に重要なのが、入店した瞬間の体験です。
お客様は店に入った瞬間から店舗を評価しています。
- 「いらっしゃいませ」の声がある。
- スタッフがすぐに気づく。
- 席までの案内がスムーズ。
- 店内が整理されている。
こうした小さな要素が、店舗全体の印象を作ります。
特に重要なのは、待たせることそのものより「放置されている」と感じさせないことです。
混雑している場合でも、
「少々お待ちください」
「○分ほどお時間いただきます」
と伝えるだけで、お客様の感じ方は変わります。
③ 注文・食事中
注文時は、お客様がスタッフと直接コミュニケーションする重要な接点です。
ここでは、
- メニューが見やすい
- 商品の特徴が分かる
- 注文方法が簡単
- スタッフが質問に答えられる
- 提供時間が適切
- 食事中に必要なものがすぐ手に入る
といった部分を確認します。
例えば、スタッフが単に注文を取るだけではなく、
「こちらは少しボリュームがあります」
「人気の商品はこちらです」
など、選択をサポートできれば、注文そのものが楽しい体験になります。
ただし、重要なのは売り込むことではなく、お客様が選びやすくすることです。
④ 会計・退店時
意外と見落とされやすいのが、会計から退店までの体験です。
食事中に満足していても、
「会計に10分かかった」
「スタッフが最後まで無愛想だった」
となれば、最後の印象が悪くなります。
反対に、
- 会計がスムーズ
- 支払い方法が分かりやすい
- 感謝を伝える
- 気持ちよく送り出す
という体験があれば、最後まで良い印象を維持できます。
ここで意識したいのが、ピーク・エンドの考え方です。
人は体験全体を均等に記憶するとは限らず、特に印象的だった場面や最後の印象が、その体験全体の評価に影響することがあります。
だからこそ、退店時の一言は小さく見えて、実は重要な接点です。
⑤ 退店後
CXは、お客様が店を出たら終わりではありません。
- SNSで店舗を思い出す
- 次回来店につながる情報を見る
- LINEなどでキャンペーンを知る
- ポイントや会員制度を利用する
- 口コミを書く
- 家族や友人に紹介する
といった行動があります。
つまり、「一度来てもらう」から「もう一度来てもらう」までを考えることがCX設計です。
顧客満足度を高める5つのポイント

では、実際に飲食店では何を改善すればいいのでしょうか。
1.お客様の「期待」を理解する
顧客満足度を考えるうえで重要なのが、期待値です。
お客様は来店前から、
「このくらいの料理が出てくるだろう」
「このくらいの時間で提供されるだろう」
「このくらいの接客をしてくれるだろう」
という期待を持っています。
そして、
となれば、満足につながりやすくなります。
逆に、料理がおいしくても期待を大きく下回れば不満になることがあります。
そのため、CX改善では「何を改善するか」だけではなく、
「お客様は何を期待して来店しているのか?」
を考えることが重要です。
2.店舗の「当たり前」を見直す
店舗側からすると当たり前のことでも、お客様にとっては重要な体験になることがあります。
「メニューをすぐ渡す」
「水を切らさない」
「料理を適切なタイミングで提供する」
「空いた皿を放置しない」
「トイレを清潔に保つ」
などです。
CX改善というと特別なサービスを考えがちですが、まずは不満を生む小さなストレスを減らすことが重要です。
3.「待ち時間」を体験として考える
飲食店では待ち時間が完全になくせないケースもあります。
そこで、待っている時間のストレスを減らすという発想も重要です。
「お待ちの間に良ければ…」とひと口サイズのドリンクをサービスする
「料理提供まで約15分ほどかかります」と事前に説明する
など、お声かけや別のサービスを提供するもの良い体験として心に残ります。
4.スタッフ全員でCXの基準を共有する
CXは店長や一部のスタッフだけで作るものではありません。
スタッフによって接客レベルが大きく違えば、顧客体験も安定しません。
- 挨拶
- 入店時の対応
- オーダー時の声掛け
- クレーム対応
- 提供時の一言
- 会計時の対応
- 退店時の声掛け
など、店舗として大切にする行動を明確にします。
ただし、すべてを細かくマニュアル化する必要はありません。
重要なのは、「なぜ、その行動をするのか」までスタッフに伝えることです。
5.お客様の声を改善につなげる
CXを改善するなら、お客様の声を集めるだけでは不十分です。
重要なのは、実際の声を「店舗改善の材料」にすることです。例えば、
「料理が出てくるのが遅かった」
という口コミがあった場合、
「気をつけよう」
で終わらせるのではなく、
- どの時間帯だったのか
- 何人で営業していたのか
- どの商品だったのか
- 注文から提供まで何分だったのか
- 厨房のどこで詰まっていたのか
など状況を詳しく把握し、次は起こらないように改善を繰り返すということです。
顧客の声を現場の問題に変換することで、具体的な改善策が見えてきます。
リピーターを増やすには「満足」だけでは足りない

ここは飲食店経営で特に重要なポイントです。
満足したお客様=必ず再来店するお客様ではないということです。
「普通においしかった」
「特に不満はなかった」
という状態でも、競合が多い飲食店では、別の店を選ぶ可能性は大いにあります。

お客様がお店を選ぶ際に、候補に挙がるのは大体3つまでと言われています。
他にも色々なお店がある中で選んでもらうために、満足ではなく“感動体験”が求められるのが、昨今の飲食事業です。
リピーターを増やすには、「また行きたい理由」を作ることが重要です。
「この店に来ると落ち着く」
「スタッフが覚えてくれている」
「この料理が食べたい」
「家族で利用しやすい」
「新商品が楽しみ」
「自分へのご褒美に使いたい」
つまり、CXのゴールは単なる「不満をなくすこと」ではなく、
「この店を選びたい」と思ってもらえる理由を作ることにあります。
飲食店で使えるCX改善の具体例

例えばカフェなら、次のような改善が考えられます。
| 場面 | よくある問題 | CX改善 |
|---|---|---|
| 来店前 | メニューが分からない | SNSやGoogleマップで商品・価格を掲載 |
| 入店 | スタッフが気づかない | 入店時のアイコンタクト・声掛け |
| 注文 | 商品を選びにくい | 人気商品や特徴を分かりやすく表示 |
| 待ち時間 | いつ出てくるか分からない | 提供目安を伝える |
| 食事中 | 空いた皿が残る | 客席状況を定期的に確認 |
| 会計 | レジで待つ | 会計導線を改善 |
| 退店 | 印象に残らない | 感謝を伝えて気持ちよく送り出す |
| 退店後 | 次回来店の理由がない | 新商品・イベントなどの情報発信 |
ポイントは、「接客を良くする」だけで終わらせないことです。
店舗の仕組み、オペレーション、商品、情報発信まで含めて改善していきます。
CX改善でやってはいけないこと
CXを高めようとして、逆に現場を疲弊させてしまうケースもあります。
すべての顧客要望に応えようとする
お客様の要望を聞くことは大切ですが、すべてに対応しようとすると、スタッフの負担が増えます。
結果として、
スタッフの疲弊 → 接客品質低下 → 顧客体験悪化
という逆効果になる可能性があります。
サービスを増やしすぎる
無料サービスや過剰な接客を増やせば、必ず満足度が上がるわけではありません。
重要なのは、「お客様が本当に価値を感じる部分」に人・時間・コストを使うことです。
店舗都合だけで改善する
「スタッフが楽になるから」
「店長が管理しやすいから」
という視点だけで改善すると、お客様の体験が置き去りになる場合があります。
CX改善では、
の3つをバランスよく考えることが重要です。
CXをKPIで確認する

CXは感覚だけで管理するのではなく、可能な範囲で数字でも確認します。
| 分類 | KPI・指標 | 何が分かる? | 改善のヒント |
|---|---|---|---|
| リピート | リピート率 | また来店してくれているか | 再来店につながる理由を分析 |
| 顧客 | 客単価 | 1回の利用でどれだけ購入しているか | セット・追加注文などを見直す |
| 顧客 | 来店頻度 | お客様がどのくらいの頻度で来店するか | 再来店のきっかけを作る |
| 口コミ | 口コミ評価 | お客様が店舗をどう評価しているか | 低評価の内容から改善点を探す |
| 口コミ | 口コミ件数 | お客様が店舗について発信しているか | 満足につながる体験を増やす |
| オペレーション | 提供時間 | 注文から料理提供までの時間 | 厨房・ホールの詰まりを確認 |
| オペレーション | 待ち時間 | 入店・注文・会計などでどれだけ待たせているか | 待ち時間の短縮・案内方法を改善 |
| 品質 | クレーム件数 | 不満につながる体験がどれくらいあるか | 内容を分類して原因を特定 |
| 品質 | オーダーミス件数 | 注文時のストレスがどれくらいあるか | 注文方法・確認手順を見直す |
例えば、「リピート率が低い」という結果だけを見ても、原因は分かりません。
- 「提供時間が長い」
- 「初回来店客への案内が不足している」
- 「商品選択が難しい」
- 「退店時の印象が弱い」
など、顧客体験を構成する要素まで分解します。
これによって、CXを「なんとなく接客を良くする」という話から、改善できる経営課題へ変えられます。
▶KPIについて詳しく知りたい方へ。

顧客体験を改善するなら「顧客視点」で店舗を見る

CX改善で最も重要なのは、店舗側の視点から一度離れることです。
店長やスタッフは、毎日同じ店舗で働いているため、
「ここはいつもこうしている」
「このくらいは普通」
という感覚になりやすくなります。
そこで、一度お客様の立場になって店舗を見てみます。
- 店舗の外から見る
「何の店か分かる?」
↓ - 入店する
「入りやすいか?」
↓ - メニューを見る
「注文したい商品をすぐ選べる?」
↓ - 注文する
「待ち時間は不安にならない?」
↓ - 料理を食べる
「期待した商品だった?」
↓ - 会計する
「スムーズだったか?」
↓ - 店を出る
「また来たいと思う?」
このように、お客様の行動を最初から最後まで追ってみると、店舗側では見えていなかった問題が見つかることがあります。
まとめ:CXは「特別なサービス」ではなく「選ばれ続ける仕組み」
顧客体験(CX)というと、特別な接客や高級なサービスをイメージするかもしれません。
しかし、飲食店におけるCXの本質は、もっとシンプルです。
- お客様が期待していることを理解する。
- 不満につながるストレスを減らす。
- 「また利用したい」と思える理由を作る。
そして、その体験をスタッフ個人の能力だけに頼らず、店舗の仕組みに落とし込む。
これが、飲食店のCX改善です。
売上を増やすために「どうやって新規客を増やすか」だけを考えるのではなく、
「なぜ、このお客様はもう一度この店を選ぶのか?」
という視点を持つ。
その視点で店舗を見直すことで、接客、商品、オペレーション、販促、教育など、さまざまな改善ポイントが見えてきます。
そして最終的に目指したいのは、
「満足した店」ではなく、「また選びたくなる店」です。
顧客体験を一つひとつ改善することが、顧客満足度の向上だけでなく、リピーターの増加、口コミ、売上の安定にもつながっていきます。





「料理をおいしくする」
「価格を見直す」
「SNSで宣伝する」